2013年07月27日

【レビュー】Muse - The 2nd Law

Museが2012年にリリースした6枚目のスタジオアルバム、The 2nd Lawを紹介します。

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The 2nd Lawとは邦題の通り、熱力学第二法則のことです。
熱力学第二法則とは、wikipediaからほぼそのまま引用ですが、
クラウジウスの法則:低温の熱源から高温の熱源に正の熱を移す際に、他に何の変化もおこさないようにすることはできない。
トムソンの法則あるいはケルビンの法則:一つの熱源から正の熱を受け取り、これを全て仕事に変える以外に,他に何の変化もおこさないようにするサイクルは存在しない。
エントロピー増大則:断熱系において不可逆変化が生じた場合、その系のエントロピーは増大する。

とのことだそうです。なかなか難しいですが、ざっくり解釈するとつまりは「エネルギー移動の際には何らかの変化が起きる」、「エネルギーを全て仕事に換算することはできない」、「高エントロピーから低エントロピーへの変化はありえない」ということです。
…まだまだわかったようなわからないような感じになりますね。私も物理の知識はほとんどないのでいまいち理解しきれていませんが、エントロピーというのは「均質なほど大きくなるもの」という理解でいいと思います。コップの中に氷と熱湯がある場合、コップの中が均質だ、とは言えないですよね。一方で時間がたって熱湯の熱で氷がとけると、コップの中はぬるま湯だけの状態になります。こちらは均質である、と言えそうです。このような場合に、後者は前者に比べて「エントロピーが大きい」状態である、ということになります。氷と熱湯が混ざってぬるま湯になることはあっても、ぬるま湯が氷と熱湯に分離することはあり得ないですよね。これが「高エントロピーから低エントロピーへの変化はありえない」という法則の一つの例です。

また、この熱力学第二法則からは、「永久機関は不可能である」という結論が導かれます。厳密には第二種永久機関が不可能、ということらしいです。第二種永久機関とは一度エネルギーを受け取ると永久に稼働できるもののことです。熱力学第二法則によると、エネルギー変換の効率は100%にはなり得ないので、最初に受け取ったエネルギーを100とすると、そのエネルギーは90、80と徐々に減っていき、いつか枯渇してしまいます。よって一度受け取ったエネルギーを永久に利用することは不可能なのです。



さて、勿論このアルバムは物理法則をテーマにしたわけではありません。この「熱力学第二法則」というのは現代の人間の世界の比喩になっています。
現代の人間は科学技術により発展し、繁栄を続けていますが、ここにも当然熱力学第二法則は当てはまります。人類の繁栄はゼロから生み出されたわけではなく、化石燃料をはじめとするエネルギーを大量に使用することが前提となっています。そして、現在はまだ繁栄を続けているわけですが、エネルギー変換の効率は100%ではなく、永久機関を生み出すことはできません。時間がたつにつれて、エネルギーの供給源は少しずつ枯渇しており、いつか完全になくなってしまいます。また、人間の活動はエントロピー増大則に従っており、もとの状態へと戻ることは不可能です。終わりなき成長は持続不可能(unsustainable)であり、現代のような人類が覇権(supremacy)を握った状態もいつかは終焉を迎えることになります。

・・・こういうことを熱力学第二法則という比喩で表現しているのがこのアルバムです。これがアルバムの大テーマになるわけですが、一曲目のSupremacyや七曲目のExplorers、11曲目のThe 2nd Law: Unsustainableなどの歌詞はこのテーマに特に関連が深いと思われます。




一方、サウンドの方ですが、こちらは今までのアルバムとは大きく方向性を異にしています。エレクトロの要素が多くの曲で見受けられ、これまでのMuseの代名詞だったピアノ+メタルテイストのリフという曲は見受けられません。昔言われていたような「過剰の美学」というものは今作からはあまり感じられません。なので、結構昔からのファンからしたら「う〜ん」という感じかもしれませんね。ただ、それは見方を変えると今までMuseはちょっと苦手だった…という人でも入っていけるということでもあります。なのでメタルくさすぎてダメ、とか激しすぎて苦手、という印象をお持ちの方にも是非聞いてもらいたいと思います。
ちなみに、サウンド自体は大きく変わりましたが、Museらしいメロディーは健在です。Follow MeやBig FreezeなんかはこれぞMuse!という感じです。

お気に入り度:★★★★☆(あくまで筆者個人のお気に入り度であり、作品自体の良し悪しとは一切無関係です)
posted by ボーン at 07:41| Comment(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年07月09日

Sunny Day Real Estate - The Rising Tide

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"The Rising Tide"は、シアトルを拠点とするアメリカのバンド、Sunny Day Real Estate(サニーデイリアルエステイト/以下SDRE)の「現時点での」最後のアルバムです。

SDREは所謂「エモ」というジャンルに分類されます。というよりそのジャンルの走りとなったバンドで、「エモ・ゴッド」と呼ばれたりもします。先ほど「現時点での」最後のアルバムと書いたのは、SDREが解散後、再び再結成したためです。つまり新たなアルバムがまた世に出される可能性があるということです。ただしwikipediaを見ると"the band attempted to record a new full length after the end of their reunion tour, but the sessions "just fell apart."(「バンドは再結成ツアーの後、新たなフル・アルバムに取り掛かったが、セッションはうまくいかなかった。」)とあるので、その可能性はどうも小さそうですが。

さて、エモと聞くと多くの方はジミー・イート・ワールドやフォール・アウト・ボーイを思い起こすでしょう。エモという音楽の特徴として私が思うのは哀愁を帯びたメロディと疾走感ですが、この2つのバンドにもそれが見られます。すごく単純化してしまうと哀愁メロディのパンク、それがエモだと考えてよいかと思われます。
一方、SDREですが、このバンドはこのようなエモバンドとは大きく異なります。哀愁漂うメロディは確かにありますが、エモの持つさわやかな疾走感なんてものは皆無で、むしろ陰鬱な調子の曲も多いです。ではなぜSDREはエモに分類され、エモの走りだと言われるのでしょうか。
そもそもエモという言葉は"emotional"という英語に由来しています。見ての通り、感情的だということです。その通り、SDREの楽曲、特に初期のものは、自らの中に渦巻くえもいえぬ感情を音楽という形で表現したようなものが多いです。SDREはその感情をぶつけるというスタイルゆえに独自性を獲得し、そのためにエモという新たな言葉で冠されたのですが、そのエモというジャンルはこの原義から次第に離れ、疾走感と切ないメロディというイメージを与えられてきたのです。
このような経緯のために、同じエモというジャンルでも、SDREと現在のエモバンドとは音楽的に大きく異なるものとなっているのです(どちらが優れているという話ではありません)。

ただし、このアルバムThe Rising Tideに関しては、SDRE自身の他のアルバムと比べても異質です。このアルバムをジャンルにはめて説明することは難しそうです。
SDREの初期のアルバムは感情的で、激しさを伴うものだったのですが、このアルバムはむしろ無機質な神々しさのようなものを感じさせます。シンセやストリングスを取り込み、高音ボーカルで歌い上げる本作は、これまでの彼らの作品の雰囲気とは大きく異なっているため、SDREファンにはこのアルバムをあまり好んでいない人も結構います。批評家にも結構こき下ろされています。また、歌詞にも変化が見られ、それまで自己の感情を歌い上げていたボーカルのジェレミー・エニックは、今作の一部の曲で社会風刺的な歌詞を書いています。
しかし、私はこのアルバムがSDREの中で一番好きです。理由は、このアルバムの楽曲に似た曲を聞いたことがないからです。アルバムのほとんどの曲が雪の結晶のような神秘性を備えており、聞く者を魅了します。特にエニックの歌声、透き通るようなハイトーンは唯一無二のものであり、耳を傾ければ目の裏に美しい風景が浮かび上がるようです。

ジャケット写真のような天使の世界、聖書の世界へと誘うこのアルバムの中でも特に私がお勧めするのが2曲目の"One"です。このアルバムの中で最もキャッチーな曲であり、一回聞くだけで十分好きになれる曲だと思います。この曲のモチーフとなっているギターリフから始まる3拍子のこの曲は、前向きな歌詞とメジャーなコード進行が活力を増してゆき、サビでその力を爆発させます。
Everything and everyone
And in the end we all are one
Truth will not be denied

というサビの歌詞はまるで人間賛歌のようであり、忘れていた感情を取り戻したかのような充実感を聞く者に与えてくれます。

他にも比較的バンド色の強い"Killed By An Angel"や、アコースティックギターの音色が心地よい"Rain Song"、神々しいイントロから始まる"Faces In Disguise"(歌詞は結構俗くさいですが)など、素晴らしい楽曲のオンパレードです。ロックはあまり聞いたことがない、という方にも是非聞いてほしいアルバムです。



お気に入り度:★★★★★(あくまで筆者個人のお気に入り度であり、作品自体の良し悪しとは一切無関係です)
posted by ボーン at 21:21| Comment(0) | レビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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